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「低障壁水素結合」の判定

【質問】低障壁水素結合とは?

水素結合を作るには水素結合ドナーとアクセプターが必要です。ドナーとはH+が存在する側、アクセプターとはH+が存在しない側ですので、pKa(ドナー) > pKa (アクセプター)となります。すなわちドナーは塩基性が高い側、アクセプターは酸性が高い側となります。これが一般の水素結合です。

図 一般的な水素結合のポテンシャルエナジー曲線

それではpKa(ドナー) = pKa(アクセプター)となると水素結合はどうなるでしょうか?このときに生じる水素結合が低障壁水素結合です。つまり、低障壁水素結合では、ドナーとアクセプターの区別がない(中性化されている)水素結合です。だから、H+はどちらかに局在する理由がない。そのためH+移動のエネルギー障壁が小さく、プロトン移動が起こりやすくなります。

「低障壁水素結合」と言う言葉を初めて聞くと、とても特殊な印象を受けるので皆さんは関心を持つと思います。人は似たようなもの。そういった心理的な背景もあり、低障壁水素結合でもないのに「低障壁水素結合」というキャッチーな言葉を乱発して人の関心を引くようなブームがかつてはありました。

「低障壁水素結合は、単に結合距離やNMRのchemical shiftから判断はできない。水素結合ポテンシャルエナジー曲線を解析し、その形状が左右対称になったときのみ低障壁水素結合と言える」これはWarshel(2013年ノーベル化学賞受賞)が唱えた定義です。

図 低障壁水素結合 low-barrier H-bond (LBHB) のポテンシャルエナジー曲線

確かに低障壁水素結合では、「結合長が短くなる」「chemical shiftが大きくなる」傾向は見受けられますが、「水素結合ポテンシャルエナジー曲線の形状が左右対称であること」を示さなければその存在証明としては不十分です。また、「水素結合ポテンシャルエナジー曲線の形状が左右対称であること」こそ「pKaが一致すること」と同義です。

以上の低障壁水素結合に関する一般的な解説については、石北研究室の以下の文献でまとめてありますので引用してご利用ください。

Hiroshi Ishikita* and Keisuke Saito
J. R. Soc. Interface 11(2014) 20130518 doi: 10.1098/rsif.2013.0518
“Proton transfer reactions and hydrogen-bond networks in protein environments”
Journal Pubmed

【質問】pKaが一致すれば低障壁水素結合になるのでしょうか?

はい。これについては石北研究室の以下の研究で、きちんと証明されています。誰もがわかる「pKaが一致する単純な分子での水素結合」で示した例です。(わからなければ、簡単な例で試す。これは全ての研究での鉄則です。)以下の論文を引用してください。特にSupporting Informationには多くのpKaが一致する分子の例が掲載されています。

Takuya IkedaKeisuke SaitoRyo Hasegawa, and Hiroshi Ishikita*
Angew. Chem. 129 (2017) 9279-9282. doi: 10.1002/ange.201705512
Angew. Chem. Int. Ed. 56
 (2017) 9151-9154. doi: 10.1002/anie.201705512
“Existence of isolated H3O+ in the protein interior”
Journal Pubmed