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Mn…Oの長さでradiation-damageを語ってよいものか?

X線結晶構造解析ではradiation-damageがつきものです。photosystem IIの水分解酸素発生反応は光誘起電子移動反応毎にS1 → S2 → S3 → S0 (→ S1→ …)とMn4CaO5錯体の酸化状態が変化し、結果として酸素発生します。遷移金属を含むMn4CaO5錯体はradiation-damageを受けやすいといわれています。

photosystem IIでは、MnはMn(III)かMn(IV)で存在し機能しますが、radiation-damageで水分子から電子が生じMn4CaO5錯体が還元されてしまうと、S-1、S-2、…といった自然界には存在しない還元されすぎたartifactな構造になるといわれています。多くの研究者が見たいのは酸素発生のS3 → S0過程での中間体構造であるため、S状態がartifactに下がってしまうのであれば、構造解析でみているものは現実の反応に寄与しているrelevantな構造ではない、ということになってしまい意義が薄くなってしまいます。

もしradiation damageにより還元されすぎている(over-reduced)Mn4CaO5錯体であるとMn(II)をもつためMn…O距離が長くなるのがその特徴と言われていました。実際にX線結晶構造解析によるMn4CaO5錯体ではdangling positionにあるMn4とMn1の間の二つのMn…O結合距離が他のMn…O結合距離と比べて、概観でもわかるように明らかに長くなっています。

図 X線結晶構造解析によって明らかとなったMn4CaO5錯体構造

そうはいうものの、本当にMn…Oが長くなることがover-reduced stateの特徴なのか、誰も確かめた人はいません。みんな当たり前に思っていたと思います。

その点に気付いた石北研究室では実際に蛋白質環境下でover-reduced stateを解析してみましたが、Mn(II)…Oは決して長いと言えるような結合長ではなく、むしろ結晶構造よりも短くなったMn(II)…Oも見られました。

つまり結合長が長めだからと言ってMn(II)だと思うことは、あくまでも思い込み・先入観であり、事実ではありません。これは石北研究室の研究で世界で初めて明文化され、以下の論文に記載されています。引用してご活用ください。

Keisuke Saito and Hiroshi Ishikita*
Biochim. Biophys. Acta  (Bioenergetics) 1860 (2019) 148059. doi: 10.1016/j.bbabio.2019.148059
“Mechanism of protonation of the over-reduced Mn4CaO5 cluster in photosystem II”
Journal Pubmed